【怖い話】誰もいないはずの休憩所

20年程前の話です。

私の実家は、昔商売をしていたそうで、母屋の隣にある倉庫の2階が当時の従業員の休憩所になっていました。

60年ほど前に店舗を移動させたため、母屋の2階からその休憩所まで、渡り廊下が掛けられた奇妙な形をしています。

私と兄の2人で、その休憩所を各自の部屋として使っていました。

もともと倉庫なこともあり、人が住むための造りではないので、中央に日の当たらない真っ暗な廊下があり、その左右に2つずつ部屋がありました。

兄は大学を卒業後すぐ独立してしまったので、当時私一人がその暗い部屋で寝泊りしていました。

ある夜、布団の中にいると部屋中で、ギシギシ、パチン、という音がずっと鳴り続いていました。

家が古いので、きしむ音がしているのだと思っていましたし、実際よくある事でした。

ところが、その夜はなかなか寝付けない上に、あまりにもうるさかったので、思わず

「うるさい!」

と大声で叫んでしまったのです。

叫んだ後で、私は物凄い後悔の念に駆られました。

今でもなぜそう思ったのかわかりませんが、霊など信じない私が、今の言動は絶対にまずい事だと直感したのです。

その後、布団の中でじっとしていると、誰かが渡り廊下を歩いてこちらに向かってくる音がしてきました。

そして、私のいる建物の入り口の古いドアを開ける音がし、バーンと物凄い勢いでドアが閉められ、誰かが奥の部屋に向かった気配がしました。

随分乱暴な閉め方だな、と思いつつも、その時は内心ほっとしたのを覚えています。

昔使用していた金庫がそのまま奥の部屋に残されており、実印なんかはそこに保管していたので、たまに親が取りに来ることがあったからです。

そこで私は

「おーい、何か探しに来たの?」

と大きな声で呼びかけたのですが、返事がありません。

もう一度呼びかけましたが、同じでした。

その時になって、私は自分の過ちに気がついたのです。

今何時だ?

暗闇の中で時計を見ると、午前3時近くです。

こんな時間に親が印鑑を取りに来るなんて、絶対にあり得ない。

それに暗闇の中、電気も付けずに…。

そう気付くと布団から飛び起き、扉を開け母屋に逃げ込みました。

その間、後ろを見ることができませんでした。

奥の部屋に向かった何かが、暗闇からこちらを伺っている気がして。

親をすぐに起こしましたが、やはり何も知らない様子でした。

泥棒かとも思いましたが、母屋の鍵は全て掛かっていました。

奥の部屋に向かった者はいったい何だったのでしょう…。

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